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執筆者の写真秋山善久

 教会がある住宅街のどこからか、金木犀の香りが漂っています。小さな花は目立たないけれど、香りは独特で誰にでも見分けがつくのがいいですね。銀杏の香りとは雲泥の差といったら、銀杏に失礼になるかしらん。

 この香りを嗅ぐと、青年の頃、初めて教会にいったときのことが思い出されます。全盲であるというその牧師は、目が不自由であるとは感じさせない明るさで、ジョークを交えながら迎えてくださいました。開拓教会で、普通の家を改造したという建物は、そのことで評判になる程に教会のイメージではありませんでした。それでも高校生や青年がたくさん集まっていたので驚いたものです。それから一年ほどして、牧師の転任が決まりました。その牧師の証しをまとめた金木犀というタイトルの本が後に出版されました。目の不自由な牧師にとって、香りは非常に重要な知覚であったのですが、金木犀の香りはキリストの香りを思わせるものであったようです。金木犀の香りは、青年の頃のさまざまな出来事を思い出させます。

執筆者の写真秋山善久

 新型コロナウィルスの感染予防のため、祈祷会は教会と各家庭をオンラインで結んでしています。ズームというアプリを使うのですが、最初は戸惑っていたマイクなど事前の調整も、数を重ねるにつれて問題なく進行するようになりました。四国の大学で学んでいるT君が画面の中で話すのをみるとき、距離を感じさせない現実が不思議に思えるほどです。祈祷会はメッセージ形式ではなく、参加者が共に学ぶ形式でしています。そうしたところで情報を一方的に流すのではなく、相互の考えの交換ができることは本当にいいものです。実のところ、コロナウィルス以前には、祈祷会の参加者は全くの少数でした。それでも10年以上、教会の祈祷会に参加し続けているN兄は、いつも祈祷会の参加者が与えられるよう祈っていました。N兄は今まで通り教会に来られ、他の人はズームでの参加です。それはN兄の祈りが答えられたことでもあります。

執筆者の写真秋山善久

 久しぶりに塀の中にいるSさんと面会してきました。Sさんとはある

方に紹介されて以来、十年以上の交流を続けてきました。面会室は、

新型コロナウィルス対策のため、アクリル板が完全に塞がれていまし

た。以前は、口元に空気穴が開いていたのですが、それがなくなった

ので互いの声が届きにくい感じです。それよりも大きく変わったのが

Sさんが痩せてしまったことです。聞けば、5キロぐらいは体重が減っ

たとのこと。それでも、いつものように聖書の話をすることができ感

謝でした。

Sさんは一番それを願っているのです。最初にお会いしたときには、

とてもそんな会話はできませんでした。途中で言い合いになって、刑

務官に止められたこともあります。若いときにヤーさんになったSさ

んは、親分から鉄砲玉になるよう命じられました。その結果が今に至

っています。でもそれも過去のこと。組織から完全に足を洗ったので

した。

 帰り際に、読み終わった本を預かってほしいと頼まれました。狭い

部屋に置く場所がないからです。既に200冊以上も保管を頼まれれい

て、私の方でも置く場所がなくなりかけています。でも、そんなこと

もSさんの部屋の比ではないのでしょう。




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